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シンガポールストーリー2

<初めての再会>
本当にあっと言う間の一ヶ月だった。
私の人生でこれほど速く時がたった時はないだろう。
英語はもともと心配していなかったが、やはり初めての海外生活は戸惑いの連続だった。
そして、そのどの戸惑いの瞬間も、「感嘆」ではなく、「失望」とともに訪れた。
「欧米だったらこうだったろうに・・」という。


とにかく、まず英語が全くなっていない。*1
あるイギリス人が隣で英語を話しているシンガポール人を指して、
「何語を話しているんだ?」
と聞いたと言う有名な話があるくらい「変」だ。
私のきれいな英語(少なくとも自分ではそう思っている)がおかしくなるのではと心配してしまう。
最初に感じた「空港での臭い」はもう慣れたのか感じなくなったが*2、
まだ、街中、特に屋台街での臭いはがまんがならない。
そんな中で唯一の救いが私の「秘書フェリシア」だった。
同じく英語はダメだが、何と言っても美人。そのうえ、気立てもよかった。
たぶん、入社以来初めてではないか?出社が毎日楽しみになったのは。
ただ、残念なことに私の恋愛光線は悉く跳ね返されたが。
そのフェリシアのおかげ?もあり、沙里のことは全く私の頭から消えていた。



そんなある日、一本の変わった電話が私の状況を一変させた。
「田無、田無寛さんですか?」
と、その電話は女性の日本語で始まった。
「はいそうですが」
と、私も日本語で答えるとその女性は、
「私、私わかります?」
頭の中を女性の名前が駆け巡る・・・うーーーーん・・・
うーーーーーん・・・・・
あのとき空港で会った女性、サリって言ったかな?
それほど女性関係の多くない私にとっては、
思い浮かぶのは悲しいかなその程度。
でも声も違うような・・
と、私の返事を待たずその女性、
「菊池です」
菊池、菊池、・・・・あーーーーーわからない・・・
わからない・・・
やはりサリはではない・・・苗字も確か違ったような・・
お!そうだ!名刺、名刺、どこ行ったっけ?
カサゴソと引き出しを捜し出した私に、次に耳に入ったのは、
「思い出せないんでしょう?」
うーーーん・・・
気を取り直した私は、ここは冷静に、
「どちらの菊池さんでしょうか?」
そこからは想定外の会話だった。
「会えばわかります。」
え?そんなこと・・・・
そして、なぜか、ときめきよりも不安が先に立った。
それはやはり海外だからだろうか?
そして、その声は続いた。
「今日夜8時に空港第一ターミナルのミーティングポイントに来て下さい。」


夜7時。まだだいぶ早いのに私はもう空港に向かう高速道路上を車で走っていた。
たった一ヶ月なのに、ここを何度こうして走ったことか。
赴任して初めてわかったが、銀行の、それも海外駐在員事務所への派遣なんて、
体のいい現地案内員。自行の行員だけでなく、お客も、空港に迎えに来て当然!
と思っている節がある。
ということもあり、ここ(高速道路)も、空港もすっかり慣れていた。
しかし、今日ばかりは、不安と期待の入り混じった気持ちで運転していた。
やはり、フェリシアか、スタッフのチュアとともに来るべきだったのか?
何と無く怪しいのでは・・・
銀行員というものは悲しいもので、どこまでも身の安全を第一に考えてしまう。
冒険のできない、いや、少ない人種なのである。
そうこう考えるうちに空港に着いてしまった。


駐車場に入れ、ゆっくり、指定されたポイントへ歩く。
ここから見る限り、今は、それらしい人物はいないようだ。
そうだろう。まだ指定の30分前。どこからか見ているのかもしれないが・・
これって、昔流行った、テレクラ利用した待ち合わせに似てるな。*3
何て、少し落ち着いた私は考えていた。
こんなときはドラマでは煙草でも吸うんだろうが、ここは禁煙国で有名なシンガポール。
そんなことはできない。しかたがないので飴でも買おうと思ったとき、
向こうから来る小柄な清楚な女性がいる。そう清楚を言う言葉がぴったりの。


そしてそれは、紛れも無く沙里だった。


*1 シンガポールの公用語は英語、中国語(マンダリンだと思う)、マレー語、ヒンズー語。
*2 実は日本の空港も少し前までは、外国人にとっては「醤油」の臭いがしていたらしい。
*3 テレクラなんて、今の人は知らないだろう。ネットでお調べください。